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ドイツ映画の魅力 その2

▲ベルリン市内の映画撮影風景 © Sharece Michelle Bunn

前回、ドイツ映画の歴史を簡単に振り返ってみましたが、『ニュー・ジャーマン・シネマ』のムーブメント以降、1980年に入ってからは、その勢いは弱まり、ドイツ映画は低迷の時期に入ったと言われていました。
それでも、80年代には、世界的に話題になり、日本でも多くの観客を動員した名作がいくつかあるのでご紹介しておきましょう。

『U・ボート』(1981年)

第二次世界大戦中、太平洋に君臨したドイツの潜水艦「U・ボート」の乗組員たちの生き残りを賭けた苦闘とドイツ軍とアメリカ人捕虜の交流を描いた戦争映画です。極限状態における人間ドラマをリアルに描写した名作。構想から完成まで4年の歳月をかけ、U・ボートの実物大レプリカを製作して撮影され、1982年にアメリカで公開されると、アカデミー賞6部門(監督、撮影、視覚・音響効果、編集、音響、脚色)にノミネートされました。


▲U・ボート ディレクターズ・カット [DVD] 販売元: 角川書店

『ネバーエンディング・ストーリー』(1984年)

ドイツの児童文学作家、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』を映画化した、ファンタジーの傑作です。リマールの歌うテーマソングや、犬の顔をした竜「ファルコン」が、日本でも人気でしたね。監督は、なんと『U・ボート』のウォルフガング・ペターゼン。


▲ネバーエンディング・ストーリー [DVD] 販売元: ワーナー・ホーム・ビデオ

『バグダッド・カフェ』(1989年)

日本ではシネマライズで公開されて大ヒットとなった、当時のミニシアターブームを代表する作品です。アメリカ、ラスベガス近郊のモハヴェ砂漠にあるモーテルに集う人々と、ドイツ人旅行者、ジャスミンの交流を描いたもので、砂漠にポツンと建つ古びたモーテルのビジュアルと、全編を通して流れるジェベッタ・スティールの歌う「コーリング・ユー」が、何とも言えない哀愁を描き出していました。
「コーリング・ユー」は、アカデミー賞の最優秀主題歌賞にノミネートされ、80以上のアーティストがカバーしています。


▲バグダッド・カフェ完全版 [DVD] 販売元:紀伊國屋書店

いずれも、記憶に残る作品で私もDVDで何度も観ていますが、“ザ・ドイツ映画!”というより、アメリカ映画色が強い印象ですね。
そんな低迷期が続いた中、90年後半に新しいドイツの若いパワーを見せつけるような作品が登場しました。

トム・ティクヴァ監督の『ラン・ローラ・ラン』(1998年)です。恋人を救うために、10万マルクを届けなければならないローラに残された時間は20分。フランカ・ポテンテ演じるローラが、真っ赤に染めた髪を振り乱し、テクノポップの音楽に乗せてベルリン中を駆け抜ける。うまくいかなかったら、また最初から始まるストーリーが3パターン。RPGのような構成と、時折アニメを挟んだ破天荒な展開は、パワフルで時にコミカルで、時間に追われる時代そのものも感じさせてくれた、私の大好きな作品です。


▲ラン・ローラ・ラン [DVD] 販売元: 株式会社ポニーキャニオン

この映画の前年1997年に公開された『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』も、病院で出会った、お互いに余命わずかな男2人が、「海を見たことがないと天国で笑いものになる」という理由で、病院を抜け出し、事件に巻き込まれながら海を目指すという、コミカルでちょっと悲しい素敵な作品でした。空も、やっとたどり着いた海もモノクロのような暗い映像で、それが男2人によく似合っているあたり、これぞドイツ映画!という感じでした。

『ラン・ローラ・ラン』で息を吹き返したドイツ映画は、その後も『グッバイ・レーニン』『善き人のためのソナタ』『ソウル・キッチン』などの、ドイツの様々な側面を描いた個性的で素晴らしい作品で、世界中から高く評価され始めます。

『グッバイ・レーニン』(2003年)

東西ドイツの統一という時代の波に翻弄される家族の姿を描いたコメディ。生粋の共産主義者の母親が心臓発作で昏睡状態中に東西ドイツが統一され、意識を取り戻した母がショックでまた発作を起こさぬよう、息子が消滅前の東ドイツを必死に見せ続けようと無謀な嘘を作り上げるという、家族愛溢れる悲喜劇です。
ドイツで大ヒットし、世界70カ国以上で上映されました。ベルリン国際映画祭の最優秀ヨーロッパ映画賞など、ドイツ内外の様々な映画賞を受賞しています。

『善き人のためのソナタ』(2006年)

1984年の東ベルリン。反体制の疑いのある劇作家の家を盗聴するシュタージ(国家保安省)の局員が、盗聴を続ける内に劇作家の生活、彼の弾くピアノに心を引かれていく。監視という理不尽な国家の圧力の元で、実際に会うこともなく心を交わし、お互いの人生に関わっていく関係と、人間らしい選択。第79回アカデミー賞外国語映画賞を受賞ししました。「善き人」という意味が優しく心に刺さるラストが、とても感動的な映画です。

『ソウル・キッチン』(2009年)

ハンブルクの大衆レストランを経営する弟と服役中の兄のギリシャ系ドイツ人兄弟を中心に友情や恋愛、人生を多彩な音楽に乗せて描くコメディです。音楽よし、テンポよし、登場人物はみんな一癖ある変人だけど、憎めない。監督のファティ・アキンがトルコ系のハンブルク市民なので、移民の多いハンブルクという町の雰囲気や人、映画全体の空気感がとてもリアルで、ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞・ヤングシネマ賞をW受賞しています。


▲ソウル・キッチン [DVD] 販売元: アミューズソフトエンタテインメント

ところで、この『ソウル・キッチン』で、仮出所してきたどうしようもない兄を演じているのが、モーリッツ・ブライブトロイ。この俳優は、あの『ラン・ローラ・ラン』で、ローラの、これまたどうしようもない恋人を演じているのです。70年代に活躍したクルト・ユンゲルスやハーディ・クリューガーのような、ドイツ将校役がピタリとはまる正統派俳優とはまた違った、21世紀のドイツ映画界には、なくてはならない存在だと思います。

ドイツの女優は、往年のマレーネ・デートリッヒやロミー・シュナーダー以降、大女優というタイプは出て来ていませんが、ナスターシャ・キンスキーなどは、日本でもラックスのCMで知られていますね。
女優と言えば、今年の4月に公開になった『バチカンで逢いましょう』。夫に先立たれたお婆ちゃんが、法王に懺悔するためにバチカンに行き、ひょんなことから潰れそうなレストランを立て直すというハートウォーミングな物語の主役、マルガレーテを演じているのは、あの『バグダッド・カフェ』でジャスミンを演じた、マリアンネ・ゼーゲブレヒト(69歳)です。相変わらずふくよかで、可愛くて、この作品の心地よさは彼女の魅力なくして語れません。

2回に渡ってドイツ映画を紹介してきましたが、これはほんの一部。他にも素敵な作品がたくさんありますので、ぜひお気に入りの1本を探してみてください。

レポート・文 前川 みやこ(コラムニスト・ライフスタイルアドバイザー) 写真提供:OFFICE SHIBA Inc.

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