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ドイツ文学は奥が深い その2

▲世界最大の書籍見本市『フランクフルト・ブックフェア』

世界有数の書籍大国ドイツでは、毎年10月中旬にフランクフルトで、世界最大の書籍見本市『フランクフルト・ブックフェア』が開催されています。このブックフェアは、前回お話した、15世紀半ばのグーテンベルクによる活版印刷の発明から間もない頃、フランクフルトの書籍商らによって書籍市が開かれたのが始まりだそうです。500年以上もの歴史があるなんて、すごいですね。再統一後は、ベルリンが文学の中心となり、ズーアカンプ社やアウフバウ出版社がヨーロッパの出版界をリードしていますが、『フランクフルト・ブックフェア』はまた別格なのでしょう。
会場のメッセ・フランクフルトには、およそ80カ国のブース展示があり、5日間の会期中に世界中から約7,000の展示業者、30万人近い入場者が集まり、開会の式典には、各国の政治家や文学者、芸術家が参加します。また会期中に、市内のパウルス教会で『ドイツ・ブックトレード平和賞』が開催され、世界の優れた小説家・学者・著述家・芸術家の中から選ばれた1名に、ドイツ連邦大統領から賞が授与されます。同じく、『ドイツ児童文学賞』『ドイツ書籍賞』の授賞式も、この時期に行われます。


▲『フランクフルト・ブックフェア』のフラッグ


▲本が展示されている会場内部


ドイツではこれ以外にも、『ケルン文学祭』や『エアランゲン詩人祭り』などの文学フェスティバルが各地で盛んに行われ、たくさんの人が集まります。それほどドイツ人の文学に対する意識が高いということ。ただし、100万部以上売れるドイツの作家はわずかで、21世紀に入ってからのベストセラーの上位は、『ハリー・ポッター』のジョアン・K・ローリングや、『ダ・ヴィンチ・コード』のダン・ブラウンといった、日本でも話題になった世界的に人気の高い作家がほとんどというのが実情のようです。

そんな中でも健闘しているドイツの作家をご紹介しましょう。
まずは、児童文学作家のコルネーリア・フンケ。ドイツ国内では『竜の騎士』で評価され、その後『どろぼうの神様』『魔法の声』の英語版が出版されて、アメリカのベストセラーリストに名を連ね、2005年には、タイム誌で「世界で最も影響力のあるドイツ人女性」に選ばれました。
純文学作品では、ダニエル・ケールマンの『世界の測量』が話題を呼びました。
『世界の測量』は、博物学者・地理学者アレクサンダー・フォン・フンボルトと数学者・天文学者・物理学者カール・フリードリヒ・ガウスという、偉大な天才ドイツ人ふたりを主人公とした哲学的冒険小説で、2005年にドイツで発表されてから、100週もの間ベストセラーに名を連ね、ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』に並ぶヒット作とも言われています。

また、異色なジャンルでは、シャーロッテ・ローシュの『湿地帯』があります。ヘアーの処理に失敗し、大量出血で緊急入院した18歳のヘレンの、風変わりな入院生活を描いた作品で、その過激で大胆な描写がドイツで一大センセーションを巻き起こしました。
ちなみに作者のシャーロッテ・ローシュは1978年生まれ。ドイツで作家としてだけでなく、歌手、レポーター、女優など多方面で活躍しているそうです。


▲シャーロッテ・ローシュ


▲『湿地帯』(二見書房刊)


2005年から始まった『ドイツ書籍賞』は、その年国内で最高と評価された長編小説に送られます。イギリスのブッカー賞やフランスのゴンクール賞などを目指したものと言われています。

2007年に受賞した、ユリア・フランクの『真昼の女』は、2つの世界大戦とその後の東西分裂というドイツの困難な時代を舞台に、生ける屍となって戦場から戻ってきた父と、精神を病んでいくユダヤ人の母という崩壊した家庭に育ち、心に深い闇をかかえて生きる一人の女性の半生を描いた作品です。この作品はドイツでベストセラーになり、ユリア・フランクは、今最も注目される作家と言われています。


▲ユリア・フランク


▲『真昼の女』(河出書房新社刊)


2009年に受賞したカトリーン・シュミットの『君は死んだりなんかしないさ』は、ベランダでいきなり脳溢血を起こして倒れ、右手右足の麻痺と失語症という事態に直面した著者の自伝的小説で、ノーベル賞作家のヘルタ・ミュラーを押さえての受賞ということで注目を浴びました。

ところで、毎年発表されるノーベル文学賞の内、ドイツ語で執筆された作品は英語、フランス語に次いで三番目に多いと言うのをご存じですか?
これまで、トーマス・マン(1929年)、ヘルマン・ヘッセ(1946年)、ギュンター・グラス(1999年)などが受賞していますが、2009年には、女流作家のヘルタ・ミュラーが受賞。ヘルタ・ミュラーは、ドイツ系ルーマニア人で、秘密警察による監視や検閲の下で『澱み』を執筆し、「故郷喪失の風景を、濃縮した詩的言語と事実に即した散文で描いた」との評価で受賞に至っています。

こうやって並べてみると、社会と闘いながらノーベル賞をとったヘルタ・ミュラー、あっけらかんと女性の性をさらけ出したシャーロッテ・ローシュなど、女性の活躍が目立ちますね。
そう言えば、ベルリンオリンピックの記録映画『オリンピア』を監督し、ナチスの協力者と批判されながら、60歳を越えてから、アフリカのヌバ族を10年間撮り続け、水中カメラマンとしても活躍し、2003年に101歳で亡くなったカメラマン、レニ・リーフェンシュタールや、ペルーのナスカの地上絵の研究で知られるマリア・ライヒェなど、昔からドイツの女性は芯が強い、そんな気がします。

それでは最後に、ドイツ文学にあまり馴染みがない方にオススメの、女性作家の作品をご紹介しましょう。
ユーディット・ヘルマンの『夏の家、その後』と『幽霊コレクター』です。
彼女は1998年28歳のときに短編集『夏の家、その後』でデビューするなりベストセラー作家となって「ドイツ文学の次世代を担う作家」と注目を浴びました。これだけ話題になると、出版社の要望で、すぐに第2作、3作と書くことを求められるのですが、彼女はそんな周囲に踊らされることなく、じっくり5年をかけて、1作目の亜流にならないようにという信念の元に、2作目の『幽霊コレクター』を書き上げています。その意志の強さ、したたかさ……さすがドイツの女! ぜひ読んでみてくださいね。


▲左からヘルタ・ミュラー、レニ・リーフェンシュタール、ユーディット・ヘルマン

レポート・文 前川 みやこ(コラムニスト・ライフスタイルアドバイザー) 写真提供:OFFICE SHIBA Inc.

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